TPOで経腸栄養剤を使いこなそう
経腸栄養剤の選び方 - 基礎講座 -監修 比企 直樹先生
北里大学医学部 上部消化管外科学 主任教授
北里大学病院 副院長
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会 理事長
トラブル予防はコスト削減&負担軽減の先行投資
半固形状流動食の使用は、より生理的な栄養摂取法であること、トラブルの予防や短時間投与によるメリットを考えると、胃瘻における第一選択と考えられます。
ところが実際には、半固形状流動食のメリットは認識していても、「栄養剤のコスト」「注入の手間」の問題で、自然滴下が可能な液状経腸栄養剤が選ばれる傾向にあります。
しかし、下痢や逆流などのトラブルが生じた場合、むしろコストや手間がかかっているということはないでしょうか? 今一度考えてみましょう。
トラブル発生時のコストシミュレーション
例えば、頻繁に下痢や逆流などのトラブルが発生している場合、新たな医薬品や資材が追加されていませんか? また医療者がトラブルに対応する時間を人件費に換算してみると、追加コストがかかっていることがよくわかります。
トラブル | 下痢の場合1) | 逆流の場合2) | ||
---|---|---|---|---|
前提 |
下痢未発生 |
下痢発生+
|
逆流未発生 |
逆流発生 |
対応・対処 |
オムツ交換×3回 |
オムツ交換×3回
|
口腔ケア等の基本ケア |
口腔ケア等の基本ケア
|
追加資材 |
軟膏 |
輸液
|
||
計 |
400.8円/人/日 |
1,732.4円/人/日 |
1,978円/人/日 |
9,772円/人/日 |
損失額
1,331.6円/人/日の損失
7,794円/人/日の損失
1)(文献1より一部引用)
2)(文献2より一部引用)
患者さんの必要十分な栄養補給のために
下痢や逆流などが発生している状況は、患者さんが十分な栄養を補給できていないことを意味しています。生命維持はもちろん、治療に必要な体力を維持するためにも、十分な栄養補給が不可欠です。また、長時間投与や下痢によって褥瘡が悪化するなどの問題に発展する場合もあります。経腸栄養法に伴う合併症などのトラブルを予防することは、患者さんの苦痛や負担を軽減させるというメリットをもたらします。
あなたならどうする
4リハビリ時間と手間
お困りごと
液状経腸栄養剤で栄養補給をしているDさん。嚥下機能も回復傾向にあり、経口訓練などのリハビリを開始することになりました。液状経腸栄養剤は投与時間が長く、リハビリ時間の確保が問題に。半固形状流動食への切り替えも検討していますが、注入の手間も気になります。あなたならどうする?
解決策
リハビリ時間の確保のため、半固形状流動食へ切り替えることが決定しました。1パックで500kcal摂取できる高エネルギータイプの半固形状流動食を朝晩2回投与することで、昼に経口訓練をする時間が確保できました。
また、注入しやすく酸性下で増粘する「粘度可変型とろみ状流動食」を選択することで、手注入がしやすく手間の課題も解決し、トラブル予防も可能となりました。
経管栄養法は、患者さんの「もうひとつの口」として、命をつないでくれます。患者さんの安心・安全・安楽な生活を支えるために必要なことは、まず、医療従事者による正しい適応の見極めと責任あるケア、それを最適に使いこなそうとする思いなのではないでしょうか。目先のコスト削減にとらわれず、必要なところに資本投下することで得られる患者・医療者双方のメリットを追求していきましょう。
参考文献
1)メディバンクス編: 患者・同僚・管理者に好かれる デキるナースになるシリーズ 番外編https://www.nurse-star.jp/column/10289/(2021年9月)
2)メディバンクス編: 患者・同僚・管理者に好かれる デキるナースになるシリーズ 第3回https://www.nurse-star.jp/column/2629/(2021年9月)