TPOで経腸栄養剤を使いこなそう
経腸栄養剤の選び方 - 基礎講座 -監修 比企 直樹先生
北里大学医学部 上部消化管外科学 主任教授
北里大学病院 副院長
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会 理事長
よくあるトラブルを解決しよう
液状経腸栄養剤を使用している際に、よくあるトラブルとして「下痢」、「胃食道逆流」があります。また栄養剤リークによるスキントラブル、時間的拘束が長時間に及ぶことによる「褥瘡発生・悪化」なども遭遇することの多いトラブルといえるでしょう。
長期療養患者の場合であれば、感染症(免疫力低下)、サルコペニア、高血糖などへの配慮も必要です。栄養素や経腸栄養剤の粘度・投与方法を工夫することで解決できることもあります。患者の状態をよく観察し、早期対応を図りましょう。
トラブルへの対応策
通常の食事は、咀嚼によって固形物がすりつぶされた状態で胃に送られ、胃本来の運動によって生理的な消化吸収が行われます。一方、液状経腸栄養剤を注入することでさまざまな合併症が生じることがあり、栄養状態だけでなく、ADL、QOLへの影響にも注意が必要です。
代表的なトラブルは、原因の見極めが何よりも大切です。代表的なトラブルと考えられる原因から、適切な対応策を導き出しましょう。
トラブル内容 | 考えられる原因 | 対応策 |
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下痢 |
・長期の絶食や静脈栄養直後による腸管の吸収能低下 |
・経腸栄養剤を少量で投与し耐性確認しながら徐々に増量する(不足分の必要エネルギーは静脈栄養との併用で補う) |
・不適切な投与方法 |
・浸透圧、投与量、投与速度の調整
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・腸の疾患(短腸症候群や炎症性腸疾患、偽膜性腸炎の合併など) |
・適切な診断と治療、腸管の安静を保つ |
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・腸内細菌叢の乱れ |
・抗生物質などの処方薬の見直し ・腸内環境を整える栄養素の追加(食物繊維・オリゴ糖・乳酸菌など) |
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・投与ルートや経腸栄養剤の細菌感染による感染性下痢 |
・注入器具の清潔管理
・免疫力を上げる成分を強化(E.フェカリスをはじめ、乳酸菌の死菌活用など) |
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・乳糖や脂質に対する不耐症 |
・経腸栄養剤の成分を見直し変更を検討 |
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胃食道逆流 |
・不適切な体位 |
・仰臥位での投与の際は上体を30度程度挙上
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・投与速度が速い |
・投与速度を落とす |
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・胃内圧が高い |
・投与前に減圧を行う
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・液状経腸栄養剤を使用している |
・半固形状流動食の使用、経腸栄養剤の半固形化を検討 |
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投与に伴う
褥瘡発生・ 悪化 |
・局部を圧迫する姿勢の継続 |
・適切な体圧管理(30度仰臥位、30度側臥位、背抜きなど)、体位変換 ・短時間投与が可能な半固形状流動食の使用、経腸栄養剤の半固形化を検討 |
・低栄養状態による褥瘡治癒の遷延 |
・褥瘡治癒を促進させる栄養素を強化(コラーゲンペプチド、亜鉛、ビタミンCなど) |
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高血糖 |
・長時間の液状経腸栄養剤の投与 |
・急激な血糖上昇を抑える糖類の選択 ・短時間注入が可能な半固形状流動食の使用、栄養剤の半固形化を検討 |
栄養剤リークによるスキントラブル |
・漏れによる皮膚の浸軟 ・漏れた栄養剤が放置され菌が繁殖する ・漏れ出た栄養剤に含まれる消化液(胃液・腸液)の酸の刺激 |
・漏れの原因を明らかにし浸軟を防ぐ ・皮膚の清潔を保つ ・皮膚保護材や適切な薬剤を使用する |
(文献1,2をもとに作成)
あなたならどうする
2下痢・褥瘡の発生
お困りごと
経腸栄養剤投与中に下痢症状がみられるようになり、その影響で、褥瘡も悪化してしまいました。下痢の原因が、C.difficileによる感染症ということが判明し、感染症治療とともに、経腸栄養剤も再検討することになりました。あなたならどうする?
解決策
感染症対策として注目されている乳酸菌E.フェカリスと、褥瘡の治療に有効といわれているコラーゲンペプチドをまとめて補給できる液状濃厚流動食に変更しました。
“トラブルが起きてから”ではなく、事前に“トラブルを予防する”ことが重要です。最近では、経腸栄養施行時のトラブルに配慮する目的で、機能性の高い成分を配合した経腸栄養剤も開発されています。経腸栄養剤をファーストチョイスする際は、予防の観点を取り入れましょう。
参考文献
1)日本静脈経腸栄養学会編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版. P155,165~167,照林社 2013
2)PDN編:トラブル&ケア.PDN.http://www.peg.or.jp/care/index.html(2021年9月)