TPOで経腸栄養剤を使いこなそう
経腸栄養剤の選び方 - 基礎講座 -監修 比企 直樹先生
北里大学医学部 上部消化管外科学 主任教授
北里大学病院 副院長
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会 理事長
注目される経腸栄養剤の「半固形化」
医療現場では液状経腸栄養剤が多く使用されています。しかし、患者の合併症や心身への負担が課題になるケースが発生しており、その対策として経腸栄養剤の「半固形化」が注目されています。
胃食道逆流や下痢の減少に貢献するとして、半固形状流動食、いわゆる高粘度の経腸栄養剤を加圧バッグなどを用い、胃瘻ルートから”短時間”で投与する「半固形化栄養材短時間注入法(半固形化法)」が広く実践されています。
また、注入の手間に配慮した「低粘度タイプ」、チューブ径の細い経鼻ルートから投与し、胃の中で液状から固形に変化する「粘度可変型流動食」などもあります。これらは、投与が簡便な反面、半固形化法のメリットが享受しにくいため、さらなる進化を遂げ登場した「粘度可変型とろみ状流動食」も注目されています。
胃瘻からの「半固形化栄養材短時間注入法(半固形化法)」とは?
胃の適応性弛緩を惹起し、正常な胃貯留能と胃排出機能が得られる消化管生理学に基づいた方法です。
十分な粘度(20,000mPa・秒)の半固形化栄養材を十分な量(300~600mL)短時間(5~15分)で注入します。本来、食事が咀嚼・嚥下され胃に貯留する際の形状は「半固形状」。「液状」は本来非生理的な形状であり、そのために胃内貯留の障害や排出の異常が起こります。一方、胃瘻からの「半固形化栄養材短時間注入法(半固形化法)」は、生理的な形状・量を摂取することで胃本来の機能を発揮させます。
半固形栄養材短時間注入法の機序
画像をクリックすると、画像が拡大表示されます。
(文献1より転載)
半固形栄養材短時間注入法による胃瘻栄養のメリット
画像をクリックすると、画像が拡大表示されます。
(文献2より転載、一部改変)
①胃食道逆流の減少 | : | 液状経腸栄養剤は粘度が低いため、胃に貯留されている間に胃の圧迫される体位や上体挙上の状態によっては、高低差によって逆流しやすくなりますが、粘度の高い半固形状流動食の注入により正常な胃貯留・胃排出が行われることで、逆流が起こりにくくなります。 |
---|---|---|
②栄養剤のリーク減少 | : | 液状経腸栄養剤は液状の性質上、隙間から流れ出ることがありますが、粘度の高い半固形状流動食は隙間を通り抜けることができないため、リークしづらくなります。 |
③下痢予防、 ダンピング症候群の予防 |
: | 下痢は、水分を腸が吸収しきれず排出される状態です。消化管を急速に通過する液状経腸栄養剤に対し、通常の食事に近い粘度の半固形状流動食は、粘性摩擦力が大きくなり、ゆっくり消化管を通過するため、下痢が起こりにくくなります。
液状経腸栄養剤は急速投与による下痢を予防するためゆっくり投与しますが、それは長時間投与による過血糖を引き起こしやすくなり、ダンピング症候群の要因ともなります。 |
④活動時間の 確保や褥瘡予防 |
: | 短時間注入により栄養剤の投与時間が短縮されるため、栄養剤投与のための拘束時間が短くなり、リハビリテーションや自由な活動時間の確保につながります。
投与時間の短縮は体位保持時間も短縮するため、局所への圧迫による褥瘡の発生を予防します。 |
どんな栄養剤があるの?
注目される経腸栄養剤の「半固形化」
「半固形」とは、液体と固体両方の属性を持ち、粘性があり、自由に変形する特徴があります。
高粘度(ゲル:流動性を失った状態)、低粘度(ゾル:流動性が保たれた状態)それぞれの特徴が投与時の環境に応じて選択されています。
特徴 | 注入方法 | 投与時間 | |
---|---|---|---|
高粘度流動食 |
摩擦力が大きくなるため、胃内にとどまり生理的な消化管運動が得られます。誤嚥や嘔吐を繰り返す、吸収障害を伴わない下痢を繰り返す、瘻孔への漏れがある、といった症例は特に有用な適応といえます。一方、栄養チューブ内の摩擦も大きく流れにくくなるので、専用の器具や加圧バッグを使用するなど、投与時に工夫する必要があります。 |
加圧バッグなどで注入 |
短時間の投与 ※一般的な投与時間の例 |
中・低粘度流動食 |
粘度が低くなるにつれて流動性が高くなるため、加圧バッグなどを使わなくても用手的に注入できる粘度ですが、胃食道逆流のリスクがある場合は慎重に用いることが提唱されています。 |
手注入 |
|
粘度可変型
|
注入時はとろみ状で“手注入”しやすく“短時間投与”も可能なとろみ状(低粘度タイプ)でありながら、酸性下で増粘効果があるため、逆流等の予防効果も期待できます。 ※胃内pHにより、増粘効果が変わりますのでご注意ください。 |
経鼻ルートで液状栄養剤を投与する場合、「粘度可変型流動食」や「粘度調整食品」で半固形化する方法があります。
特徴 | 注入方法 | 投与時間 | |
---|---|---|---|
粘度可変型流動食 |
注入時は液状のため、栄養チューブ内の摩擦が少なく、自然落下での注入も可能です。配合されている成分が胃内で増粘します。 |
自然滴下 |
長時間の投与 QOLに課題 ※一般的な投与時間の例 |
粘度調整食品 |
液状経腸栄養剤を注入する前にあらかじめ注入しておくと、胃内での液状経腸栄養剤の成分と反応し、増粘します。 |
経腸栄養法を行っているすべての方が適応というわけではありません。
正しい適応の下、実施しましょう。
- 適応外
-
器質的に胃に異常のある患者(高度の食道裂孔ヘルニアのある患者,幽門側胃切除後の患者など)
-
機能的に胃に異常がある患者〔機能性ディスペプシア(dyspepsia)〕
-
消化吸収障害のある患者
- 禁忌
-
食道切除後の胃管に造設した胃瘻(代用食道であり胃の貯留,排出の機能がないばかりでなく,噴門機能もないため禁忌である.腸瘻チューブを併用し液体栄養剤を緩徐に注入すべきである)
-
胃全摘出後の腸瘻および腸瘻の患者(胃の貯留能がないため禁忌である.腸瘻では液体栄養剤を緩徐に注入すべきである)
(文献3より引用)
あなたならどうする
3胃食道逆流の発生
お困りごと
上体を30度以上に挙上させ、投与速度にも配慮し、液状経腸栄養剤を注入しているBさんですが、体の動きによっては胃食道逆流が見られます。誤嚥のリスクを避けるためにも、逆流を防ぎたいのですがー。あなたならどうする?
解決策
液状経腸栄養剤は粘度が低いため、腹部の圧迫や体の向きなどによっては逆流を起こしやすくなります。そこで、正常な胃内貯留・胃排出が期待できる粘度の高さに着目し、半固形状流動食に変更しました。
その結果、逆流の発生、誤嚥のリスクを回避することができました。さらに、半固形状流動食は短時間注入が可能なので、リハビリテーションの時間も確保できるようになりました。
参考文献
1)合田文即編著:胃ろうPEGケアのすべて.p.68 図1.医歯薬出版.2011
2)合田文即編著:胃ろうPEGケアのすべて.p.72 図3.医歯薬出版.2011
3)合田文即編著:胃ろうPEGケアのすべて.p.70 医歯薬出版.2011