TPOで経腸栄養剤を使いこなそう
経腸栄養剤の選び方 - 基礎講座 -監修 比企 直樹先生
北里大学医学部 上部消化管外科学 主任教授
北里大学病院 副院長
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会 理事長
経腸栄養剤(濃厚流動食)を選ぼう
経腸栄養法のメリットを理解し、それを活かすためには、患者の栄養状態、個々の病態、環境などの視点から、最適な経腸栄養剤を選ぶことが大切です。必要な栄養量の確保だけでなく、栄養組成、管理のしやすさ、トラブル予防などにも配慮して、さっそく選択してみましょう。
経腸栄養剤をフローチャートから選択しよう
経腸栄養剤のフローチャートから、選択のポイントを紹介します。まず、消化・吸収機能が保たれている(良好)か、障害されている(不十分)かをアセスメントし、個々の状態にあった窒素源(たんぱく質、低分子ペプチド、アミノ酸)を摂取できるよう、栄養剤を選択します。
経腸栄養剤の選択基準
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投与手技を考えよう
経腸栄養法が適応となった患者に対して、どのように経腸栄養剤を投与するのか、投与手技も検討が必要になります。現在はさまざまな容器形状の製品が開発されています。紙パックタイプ、バッグタイプなどが主流といわれていますが、それぞれ衛生面、利便性、コストなどの面で特徴があります。最近では、コップやイルリガートルなどへの移し替えが不要で、経管で使用する際は、直接専用の経腸栄養セットに接続する「テトラ・プリズマ®ボトル※」タイプも販売されています。
容器特性による投与手技のメリット・デメリット
缶・紙パック | バッグタイプ | テトラ・プリズマ®ボトル※ | |
利便性 |
イルリガートル、シリンジなどへの移し替えが必要。
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移し替えの手間が不要。
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移し替えの手間が不要。
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衛生面 |
菌汚染リスクがある。 |
移し替え時の菌汚染を防止。 |
移し替え時の菌汚染を防止。 |
コスト | |||
廃棄方法 |
缶:リサイクル可能。
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地区によっては医療廃棄物の扱いに。 |
紙ボトル:通常廃棄可能(環境に配慮)。 |
エネルギー、水分、各栄養素の投与量を算出しよう
エネルギー投与量は、個々の症例のエネルギー必要量に基づいて決定します。栄養障害患者に過不足なくエネルギーを投与するために、基本となるエネルギー必要量に影響を与える活動状態やストレスの程度など、個々の詳細な状態を把握するよう心がけましょう。一般にエネルギー必要量⇒たんぱく質必要量⇒脂質必要量⇒糖質必要量の順に算出し、さらにビタミン量、微量元素量、水分量を決定します。
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エネルギー必要量を算出する
・体重当たり25~30kcalを基準とし、ストレスの程度に応じて増減します。
・間接カロリメトリーにより安静時エネルギー消費量を測定して算出します。
・Harris-Benedictの式を用いて予測された基礎エネルギー消費量×活動係数×ストレス係数で求めます。Harris-Benedictの式による基礎エネルギー消費量(BEE : kcal/日)男性 [66.47 + 13.75W + 5.0H - 6.76A]
女性 [655.1 + 9.56W + 1.85H - 4.68A]
W:体重(kg) H:身長(cm)A:年齡(年)
この算出法は広く用いられていますが、実際の数値との間の誤差(特に高齢女性の場合は多めに算出されます)を念頭に置く必要があります。活動係数寝たきり:1.0, 歩行可:1.2, 労働:1.4〜1.8
ストレス係数術後3日間
軽度 (胆嚢・総胆管切除、乳房切除):1.2
中等度 (胃亜全摘、大腸切除):1.4
高度 (胃全摘、胆管切除):1.6
超高度 (膵頭十二指腸切除):1.8
臓器障害
1.2+1臓器につき0.2ずつUP(4臓器以上は2.0)
熱傷
熱傷範囲10%ごとに0.2ずつUP(MAXは2.0)
体温
1.0℃上昇ごとに0.2ずつUP(37°C:1.2, 38°C:1.4, 39°C: 1.6, 40°C以上:1.8)
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たんぱく質の必要量を決定する
0.8~1.0g/kg/日を基準とし、年齢、病態、代謝亢進レベルに応じて増減します。非タンパクカロリー(NPC/N比)※は150前後に設定しますが、侵襲時には100前後、保存期の腎不全の場合は300以上とする場合もあります。
※非タンパクカロリー(non-protein calorie)/窒素比
投与されたアミノ酸以外の栄養素(糖質+脂質)のエネルギー量を、投与アミノ酸に含まれる窒素量(g)で割った比のこと。
たんぱく質以外の栄養素(炭水化物+脂質)が十分投与されないと、タンパク合成に使われるアミノ酸がエネルギー源として消費されてしまうため、アミノ酸が有効にタンパク合成されるのに必要な量を求める指標。状態 たんぱく質必要量(g/kg/日) 非タンパクカロリー(NPC /N比) 一般的な入院患者
0.8~1.0
150前後
保存期の腎不全
0.6~0.8
300以上
人工透析
1.0~1.2
腹膜透析
1.1~1.3
慢性肝炎
1.2程度
肝硬変
1.0~1.3
肝性脳症による高アンモニア血症
0.5程度
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脂質の必要量を決定する
総エネルギー投与量の20~40%を基準とし、病態に応じて増減します。たんぱく質や糖質が1g当たり4kcalなのに対し、脂質は9kcalと高エネルギーです。
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)や急性呼吸促迫症候群(ARDS)、糖尿病の既往がある場合は、糖質より脂質の割合を増量することもあります。 -
糖質の必要量を決定する
総エネルギー必要量―(たんぱく質+脂質のエネルギー量)で算出される糖質の必要量が、総エネルギー必要量の50~60%になるのを基準とし、病態に応じて増減します。
・ケトーシス防止・体蛋白異化抑制のため最低100g/日以上の投与が必要です。 -
ビタミン・微量元素の必要量を決定する
「日本人の食事摂取基準」をもとに、疾患や病態による必要量の変化を考慮して調整します。
・微量元素の銅、亜鉛、セレンなどが摂取基準に準拠していない栄養剤もあるため、長期間同一の経腸栄養剤を使用している場合や、栄養剤の投与量が1日投与量に満たない場合は、不足に注意が必要です。 -
水分投与量を決定する
30~40mL/kg/日を基準とし、体重、体組成、体内水分量、病態に応じて厳重なモニタリングを行って増減します。
・経腸栄養剤に含まれる水分含有量は1kcal/mL濃度のもので約85%、高濃度になるにつれて含有量は減少します。脱水を引き起こさないよう注意が必要です。
経腸栄養剤投与後の観察・評価をしよう
多角的な視点から個々の患者さんに合った最適な経腸栄養剤を選択した後に注意すべきことは、投与後の観察や評価です。
以下を参考に、体重測定や血液検査の数値も含め、選択したものが適正なものかを判断しましょう。
投与後のチェックポイント
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消化器症状はないか
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チューブからの漏れ、チューブの閉塞はないか
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全量投与できているか
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原疾患への悪影響はないか
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使いづらさはないか
あなたならどうする
1衛生管理
お困りごと
経腸栄養法の適応となったAさんに、紙パックタイプの液状濃厚流動食をイルリガートルに移し替えて投与を開始しました。しかし、菌汚染リスクが課題に。移し替えや殺菌消毒の手間も考え、他の投与手技を検討してみるものの、コスト面で課題が出てきました。あなたならどうする?
解決策
菌汚染リスクと作業性を解決するために、バッグタイプが開発され、利用が進んでいます。しかし、利便性の反面、価格が高くなってしまい、またプラスチック容器であるために廃棄面での課題も。そこで、昨今注目を集めている「テトラ・プリズマ®ボトル※入り液状濃厚流動食」を試してみることに。専用の「パックテイル経腸栄養セット」に接続することで、衛生的な投与が可能で、紙パックタイプのため、コスト面・廃棄面での課題も解決できました。
参考文献
1)日本静脈経腸栄養学会編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.pp..24~30,照林社 2013
2)栗山とよ子監修:経腸栄養剤マップ.PDNhttp://www.peg.or.jp/care/nst/map.pdf p.pdf (2021年9月)
3)日本静脈経腸栄養学会編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.pp..140~146,照林社 2013