NUTRI ニュートリー株式会社

TPOで経腸栄養剤を使いこなそう

経腸栄養剤の選び方 - 基礎講座 -

監修 比企 直樹先生

北里大学医学部 上部消化管外科学 主任教授
北里大学病院 副院長
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会 理事長

第1章腸が働いているなら、腸を使おう

消化吸収機能を持つ腸(小腸)を安全に使用できるのであれば、腸を使うことを諦めてはいけません。その理由を詳しく見ていきましょう。

腸のはたらき

腸は消化管機能にとって要ともいえる重要な働きをしています。安全な食物は生命維持に必要なエネルギー源として体内に取り込み、病原性のあるものは排除するという識別機構を持っています。口から肛門までが繋がっている消化管は、絶えず外界と接しています。そのため異物(細菌、ウイルスなど)が血中に侵入しないよう、腸管上皮細胞や腸粘膜下のリンパ組織が生体防御の役割を担っています。経腸栄養法は腸管内に栄養素が存在することで腸管粘膜の萎縮を予防し、腸管のバリア機能・免疫能維持が期待できます。

腸を使うメリット

  1. 腸管粘膜の萎縮を防止

    消化管本来の機能である消化吸収機能をもつ腸管粘膜は、経腸栄養施行時は、腸粘膜の恒常性が保たれるため萎縮が予防できます。
    腸管を使用しない静脈栄養施行時には廃用性腸管粘膜萎縮が起こります。

    A)固形飼料

    B)TPN14日間

    固形飼料とTPN管理ラットの小腸組織像の比較固形飼料ラットは小腸絨毛の丈が高く、密生し、筋層も厚い。TPNラットでは絨毛の丈も短く、細く、疎であり、上皮の剥離も見られる。筋層も薄く、全体に萎縮が著明である。

    ※TPN(Total Parenteral Nutrition):中心静脈栄養
    (文献1,2より転載)

  2. 腸管のバリア機能・免疫能を維持する

    経腸栄養は、腸管を利用し栄養が投与されることで腸管とその免疫機能を刺激し、腸管免疫ばかりでなく全身の免疫能を活性化します。
    一方、腸管を使用しない状態が長期にわたることで、腸管粘膜が萎縮してしまい、腸管粘膜上皮のバリア機能を低下させ、腸内細菌や毒素が消化管から体内に移行して感染を起こしやすくなります。この状態をbacterial translocation(バクテリアルトランスロケーション)といいます。

経腸栄養法の適応と投与ルートを選ぼう

経腸栄養法が適応と判断された場合、胃食道逆流のリスクも考慮し、投与ルートやチューブの留置位置を適切に選択することが大切です。
栄養チューブを口や食道の代わりに使用しますが、まず経鼻栄養を施行して経腸栄養が安全に行えるかを確認します。栄養管理期間が4週間以上と見込まれる場合は、胃瘻・腸瘻などの造設術を行います。

代表的な投与ルート

代表的な投与ルート
代表的な投与ルート

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※カッコ内の英略語は、本来そのアクセスを導入するための術式を表しますが、ここでは投与ルートの意味でも使用しています。

(文献3より転載、一部改変)

MEMO

「早期経腸栄養」

経腸栄養による腸管のバリア機能の維持に注目し、免疫能が低下しやすい術後患者や重症患者に対し、絶食期間を短縮するために早期からの経腸栄養が推奨されています。その効果として、感染性合併症の減少や在院期間の短縮が報告されています。

侵襲後あるいはICU入室後、おおむね24時間以内、遅くとも36時間以内に経腸栄養を開始することで、感染症の減少、死亡率低下などのメリットが報告されています。令和2年度診療報酬改定の際、早期栄養介入管理加算(1日につき400点、7日限度)が新設されました。
算定要件:(1)特定集中治療室に入室後早期から、経腸栄養などの必要な栄養管理が行われた場合は、7日を限度として、所定点数に加算する。
患者の早期回復に伴う早期退院においては「できるだけ早く腸を使うこと」がスタンダードになりつつあるようです。

(文献4,5,6をもとに作成)

経腸栄養法が選択され、最適な投与方法が決まったら、次はどの経腸栄養剤を使用するのかを検討しましょう。選択のポイントをフローチャートとともに、わかりやすく解説していきます。

参考文献
1)大熊利忠:経腸栄養の適応・利点と選択基準.「NST完全ガイド改訂版」(東口高志編),p.35.図2(※画像のみ引用) 照林社 2009
2)岡田晋吾編:キーワードでわかる臨床栄養 令和版.p.203 図V 羊土社 2020
3)鷲澤尚宏監修:在宅での経管栄養「栄養療法」を見直す.ニュートリション・ジャーナル Vol.05 メディバンクス 2020
4)日本静脈経腸栄養学会編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.p226,照林社 2013
5)厚生労働省保険局医療課:早期栄養介入管理加算.令和2年度診療報酬改定の概要 (総論)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000666010.pdf(2021年9月)

6)福島亮治:早期経腸栄養.PDNレクチャー.PDN.2011http://www.peg.or.jp/lecture/enteral_nutrition/06.html(2021年9月)

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