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キーワードでわかる臨床栄養

第9章静脈栄養法

9-4:代謝性合併症[metabolic complications]

代謝性合併症[metabolic complications]
 経腸栄養に比較し静脈栄養は栄養素が直接静脈内に投与されるため,代謝性合併症を容易にきたす可能性がある.TPNを施行する際には高浸透圧かつ大量の栄養素が静脈内に投与されるために特に代謝性合併症がないか頻回にモニタリングを行う必要がある.静脈栄養に伴う代謝性合併症として①血糖異常などの糖代謝異常,②電解質異常,③高トリグリセリド血症,④腎前性高窒素血症,⑤酸塩基平衡異常,⑥ビタミン・ミネラル欠乏症,⑦リフィーディング症候群,などがある.

① 糖代謝異常
 高血糖はTPNを施行する際に最も注意すべき代謝性合併症であり,定期的に血糖値,尿糖,尿中ケトンのモニタリングを行い血糖値を正常範囲に維持することが重要である.糖尿病,ステロイド投与,敗血症,多臓器不全患者,侵襲後の患者などでは高血糖をきたしやすいので特に注意する.糖質投与速度は5 mg/kg体重/分以下とし,これを超えると200 mg/dL以上の高血糖の発現頻度が高くなる.500 mg/dL以上の高血糖では高浸透圧性非ケトン性昏睡となり,致死率が高いとされる.ICU患者ではインスリンを用いて血糖値を110 mg/dL以下に維持することにより敗血症の発生頻度,在院日数,死亡率が有意に低下することが報告されている(参考文献9-4-6).実際にはこの程度の血糖値を維持するには低血糖など合併症のリスクが高くなる可能性もあり現実的でない.したがって,通常の静脈栄養の際には200 mg/dL以下に維持することを目標とする.グルコース10 gにインスリン1単位が目安で,尿糖ケトンチェックを4~6時間ごとに施行し,適宜インスリン投与量を調節する.医療従事者の技術や人数にあわせてそれぞれの施設に応じた適切なプロトコールを作成し,それに従い血糖管理を行うことが望ましい.
 低血糖はTPNにより,生体内ではグルコース処理のために高インスリン分泌状態となっているため持続的TPNが突然中断された際に起こりやすい.低血糖が数分持続しただけで不可逆性脳障害をきたすことがあるので,速やかな糖質投与が必要である.低血糖症状の早期発見と低血糖を起こした際の緊急対策を医療従事者,家族,本人などに十分に説明し教育することも重要である.

高トリグリセリド血症
 高トリグリセリド血症は脂肪乳剤の投与を受けている患者に起こる場合がある.また同時に膵炎の発症,肺機能障害をきたすことがある.トリグリセリド(TG)値が1,000 mg/dL以下であれば脂肪乳剤を投与しても膵炎が誘発されることはないがTG値が400 mg/dLを超える膵炎患者に対しては投与を控える.必ず0.15 g/kg体重/時以下の速度で投与する.20%脂肪乳剤の場合(体重50 kgの患者で)は投与速度を25 mL/時以下に維持する.本邦で市販されている脂肪乳剤はn-6系脂肪酸が含有されているため,炎症が高度な重症病態では使用を控えた方が安全である.

③ 腎前性高窒素血症
 TPN開始後の脱水や全身状態の悪化によるタンパク異化の亢進により高窒素血症が起こることがある.これはタンパク異化亢進により遊離アミノ酸が増加し肝臓における尿素合成が亢進するために起こる.NPC/N(非タンパクカロリー/窒素)比を150~200の範囲内に設定することと適切な栄養投与を行いタンパク異化を抑制することにより改善する.

④ ビタミン・ミネラル欠乏症
 微量元素やビタミンA,D,B12などは体内貯蔵量が大きく欠乏症は比較的起こりにくいが水溶性ビタミンであるビタミンB1,リボフラビンは体内貯蔵量が小さく,欠乏症をきたしやすい.なかでもビタミンB1欠乏による代謝性アシドーシスには十分に注意する必要がある.特に糖質主体の高カロリー輸液による栄養管理を行う場合や侵襲下で糖代謝が亢進している場合にはビタミンB1の消費量が増加するために欠乏状態に陥りやすい.また胃がんで胃切除後に経口摂取が不十分な場合にも長期にわたり欠乏状態に陥りやすいのでビタミンB1投与を考慮する.経口摂取が不可能な場合で静脈栄養を行う場合には注意する.

リフィーディング症候群
 栄養不良患者では静脈栄養により急速に栄養投与を行うと心不全となる,いわゆるリフィーディング症候群7)をきたすことがある(第1章-2 Key Word2,p.31,第8章-5 Key Word,p.233参照).したがって高度の栄養不良患者にTPNを開始する際にはゆっくりと投与量を増量する.またTPNでは過剰栄養投与にも注意する必要がある.投与量が35 kcal/kg体重を超える場合には,肝臓の脂肪変性,高血糖,BUNの上昇,血中トリグリセリド値の上昇,呼吸促迫,CO2産生増加による高炭酸ガス血症などをきたす場合がある.

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