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キーワードでわかる臨床栄養

第9章静脈栄養法

9-4:カテーテルに起因する合併症[catheter related complications]

カテーテルに起因する合併症[catheter related complications]
 カテーテルに起因して発生する合併症は末梢静脈カテーテル(ショートカテーテル)と中心静脈カテーテルでは異なる.

① 末梢静脈カテーテルでの合併症
 末梢静脈カテーテルに発生する最も重要な合併症は末梢静脈炎である.これには,①針やカテーテル自体の材質による機械的静脈炎,②投与する輸液剤,薬剤のpH,濃度(浸透圧)などによる化学的静脈炎,③挿入部位から血管内へ細菌が侵入することにより起こる細菌性静脈炎,がある.いずれもカテーテル刺入部局所の熱感,発赤,疼痛や,刺入部位から連続し静脈の走行に沿い中枢に向かう索状物を触知することなどが末梢静脈炎の症状としてみられる.
 カテーテル自体に直接起因する合併症としてはカテーテルの材質が生体と反応することにより発生するものと考えられている.シリコン,ポリウレタンやポリ塩化ビニールなどがカテーテルの主な素材として用いられている.塩化ビニールは可塑剤として含まれるDEHP(di-2-ethylhexyl phthalate)が環境ホルモンとして生体に影響を及ぼしている可能性が指摘されたため,その使用は減少しほかの素材が主流として用いられている.
 体動が激しい部位や屈曲する部位などに穿刺することによりカテーテルの機械的刺激による静脈炎の発生の頻度が高まることも知られており,穿刺部位を適切に選択することも重要である.「静脈経腸栄養ガイドライン」では上肢の静脈を使用することが推奨されている(参考文献9-4-1).
 また末梢静脈カテーテルの穿刺の際の針刺し事故も医療従事者にかかわる合併症であり,最近では針刺し事故防止機能付きの穿刺カテーテルが主流となっている.穿刺時の出血を防止する止血弁付きのカテーテルや血管内に入ると柔軟性がでて血管に対する機械的刺激を最小限にするカテーテルなども使用されている.また留置期間が長いほど静脈炎などの合併症の発生頻度も高くなり,末梢静脈カテーテルを通常72~96時間以上留置しない方がよいとされている(参考文献9-4-2).したがってこれより長い期間静脈栄養を必要とする場合には中心静脈栄養(TPN)に移行する必要がある.
 末梢静脈炎の兆候がある場合には速やかにカテーテルを抜去する.静脈炎予防のためにステロイド,ヘパリン,血管拡張薬などの薬剤は使用しない方がよい.

PICCでの合併症
 PICC(peripherally inserted central catheter)の場合では発生する合併症が異なる.PICCは通常前肘の尺側または橈側皮静脈から穿刺し,上大静脈あるいは上腕の中間付近に先端を留置するカテーテルである.中心静脈カテーテルより挿入が容易で,また穿刺,留置に伴う合併症の発生頻度が低く,安全性も高いとされている.前腕からPICCを挿入した場合には,PICCカテーテルが血管内を長距離にわたり走行しかつカテーテルが肘関節を通過するために,肘関節の屈曲による滴下不良とそれに伴う血栓による閉塞,血栓性静脈炎などの問題が指摘されている.したがってこれらの問題を解消するために上腕から穿刺する上腕PICCが推奨されており現在では主流となっている.

③ 中心静脈カテーテルでの合併症
 中心静脈カテーテルに起因する合併症としては,①穿刺に伴う合併症,②カテーテル留置に伴う合併症がある.中心静脈穿刺に伴う主な機械的合併症は穿刺部位により異なるが,鎖骨下穿刺では気胸,大腿静脈穿刺では血栓である.感染性合併症や血栓性合併症は大腿動脈経路に多く,また重篤な機械的合併症の発生頻度は大腿動脈経路と鎖骨下静脈経路には差はなく,可能な限り鎖骨下静脈経路を選択するとよい.中心静脈カテーテルに関連した他の合併症としてカテーテル関連血流感染があり,最も注意すべき合併症である.9-4:カテーテル関連血流感染(CRBSI)[catheter related blood stream infection] (https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch9-4/keyword2/)にて詳細に解説する.

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