第9章静脈栄養法
9-3:人工脂肪粒子[artificial lipid particle]
■人工脂肪粒子[artificial lipid particle]
血中に存在する中性脂肪(トリグリセリドまたはトリアシルグリセロール)を多く含む粒子はカイロミクロン(chylomicron:CM)と超低密度リポタンパク(very low density lipoprotein:VLDL)である.静脈注射用脂肪乳剤が登場して以来,これまでとは全く異質な中性脂肪粒子が仲間入りした.すなわち人工的に作製した中性脂肪粒子(人工脂肪粒子)である.水に不溶な脂肪がなぜ静脈内に投与可能なのであろうか? この疑問を理解するためには,脂肪乳剤と人工脂肪粒子の構造を知る必要がある.静脈栄養では栄養素を単純な単位物質の形で投与するのが基本であり,糖質はグルコース,キシリトールやフルクトース,タンパク源はアミノ酸で投与される.しかし脂肪の単純な単位物質は脂肪酸であるが,脂肪酸の形では投与できない.よってより高分子であるトリグリセリドの形で投与されることとなる.これが静脈栄養における人工脂肪粒子の特殊性である.脂肪乳剤の中には脂肪粒子が水に溶けて無数に浮遊している.1個の脂肪粒子の芯には大量のトリグリセリドが詰まっており,粒子の表面には水に可溶となるための親水基であるリン脂質(卵黄レシチン)が頭を出している(図1).
図1●脂肪乳剤の基本構造