第9章静脈栄養法
9-2:CVCラインの管理
■CVCラインの管理
CVC管理に関連した敗血症(CRBSI)は,院内感染の重要な要因であることが徐々に認識されるようになり,その予防対策が積極的に進められるようになってきている.合併症としてのカテーテル感染症は本章-4 Key Word2,p.254で述べられているので,管理方法について簡単に述べる.
① ドレッシング管理
原則として,CVC挿入部のドレッシング交換は,曜日を決めて週1~2回行う.ドレッシングにはフィルム型とパッド型があるが,どちらでもよい(図16).剥がれないような工夫をすることの方が重要である.
図16●ドレッシング
Aがフィルム型ドレッシング.CVC挿入部を観察することができる.Bがパッド型ドレッシング.CVC挿入部を観察することはできないが,密封するという効果においては差がない.汗をかきやすい症例や夏場などにはフィルム型よりも有利である.また,CVC挿入部は見えないことを望む患者もいる.
現在推奨されているのは,10%ポビドンヨード(イソジン®),ヨードチンキ,グルコン酸クロルヘキシジンアルコール(ヒビテン®アルコール)である.欧米では2%クロルヘキシジン(ヒビテン®)が推奨されているが,本邦のガイドラインでは,これら3種の消毒薬の中から選択すればよい,ということになっている.また,かつてはポビドンヨード(イソジン®)ゲルが一般的に用いられていたが,現在は,その使用は推奨されていない.
③ 輸液の無菌調製
TPN輸液は,細菌増殖の格好の培地であり,輸液の汚染を予防することはCRBSI予防上もきわめて重要である.原則としてTPN輸液は,クリーンベンチを用いて無菌的に調製する必要がある(図17).可能な限り,TPN用キット製品を使用するべきであり,TPN輸液にはビタミン剤および微量元素製剤以外の薬剤を混注すべきではない.本邦では,さまざまな薬剤をTPN輸液に混注して投与する傾向があるが,輸液の汚染の機会を増やし,CRBSIの危険性を高めることになる.
図17●輸液の無菌調製
TPN輸液は,無菌調製を行うべきである.すなわち,清潔テクニックにより,クリーンベンチ内で作業を行う必要がある.輸液の無菌調製はCRBSI予防対策の基本である.現在,TPN用キット製品が非常に発達している.ビタミン剤が配合された製品も使用可能である.これらをうまく利用することにより,高度の無菌管理の実施が可能である.しかし,TPN輸液はきちんと管理しないと微生物が増殖しやすい,TPN輸液にはビタミン剤や微量元素製剤以外は混注すべきでない,という考え方が普及しない限り,本邦におけるCRBSI発生頻度は低下しないと思われる.
④ 輸液ラインの無菌的管理
輸液ラインは,輸液とカテーテルの間を接続するだけの,一体型(図18)を用いるべきである.三方活栓は,ICUや手術室以外では輸液ラインに組み込むべきではない(図19).現在,クローズドシステムと称する接続器具が用いられるようになってきているが,その使用により側注を安易に行うようになる傾向があることは問題であり,クローズドシステムの意義を理解したうえで使用する必要がある4).輸液ラインとカテーテルの接続に際しては,70%エタノールで消毒するべきである.酒精綿で拭うだけという安易な考え方での管理は行うべきではなく,CRBSI発生の重要な因子となることに注意する必要がある3).筆者が開発したI-system(図20)は,カテーテルハブにI-plugを装着することによって閉鎖状態とし,先端に針のついた輸液ライン(I-set)を用いて接続するシステムであり,CRBSI予防上有用であることを報告している(参考文献9-2-5).
図18●一体型輸液ライン
CRBSI予防対策としては,インラインフィルター,側注用Y字管があらかじめ組み込まれた一体型輸液ラインを使用するべきである.本輸液ラインは,輸液バッグとカテーテルを接続するだけになっている.すなわち,輸液ラインの管理では接続部の数が増えるほど微生物侵入の機会が増えることになるのであり,そのため,接続部の数を最少とすることが重要である.三方活栓を組み込むことは接続部の数を増やすことになるし,また,フィルターを組み込む場合でもあらかじめ組み込まれたものを使用しないと,接続部の数が増えることになる.
図19●中心静脈輸液ラインにおける三方活栓の使用
CVCラインには,特別な場合を除いて三方活栓を用いるべきではない.微生物侵入の重要な要因となり,CRBSI発生の危険が高くなる.しかし,現実には三方活栓がCVCラインに使用されている施設が多い.しかも,酒精綿で拭うだけでワンショット静注が行われている.こういう管理では輸液ラインの無菌管理は不可能であり,CRBSI予防対策としても不完全であることはいうまでもない.
図20●I-system
筆者が開発した輸液ライン接続システム.カテーテルハブはゴム付き蓋(I-plug)で閉鎖状態とし,輸液ライン先端につけた針(I-set)で接続して固定するシステムである.I-plugとI-setのマーキング部分をあわせた状態で針をゴム栓に刺し込み,I-setのカバーを捻ることにより固定される.I-setはオス側の開口部を最小とするために針を用いており,CRBSI予防対策としても有効であることは,実験的・臨床的に証明されている.
輸液が無菌調製され,病棟で薬剤の混注が行われないというシステム以外は,輸液ラインにインラインフィルターを組み込むべきであり,あらかじめフィルターが組み込まれた一体型を用いることが推奨される.CDCガイドラインで「感染予防目的にルーチンにフィルターを用いるべきではない」という条項が記載され,本邦でもフィルターは不要との考えが出てきた頃もあったが,CDCガイドラインで引用されている文献はすべて末梢静脈ラインに関連したものであり,本邦のガイドラインでは本邦の輸液管理の現状を考慮して「インラインフィルターを使用する」となっている(図21).
図21●インラインフィルター
0.2μmのインラインフィルターは,すべての細菌をトラップすることができる.もちろん,輸液調製中に生じたガラス片などの異物,輸液剤中の結晶・沈殿物などもトラップすることができる.右はフィルター断面の操作電子顕微鏡写真.CDCガイドラインではフィルターをルーチンに使用すべきではないとしているが,本邦では輸液管理の現状を考慮すると,TPNラインのすべてにインラインフィルターを使用するべきである(参考文献9-2-6).