第9章静脈栄養法
9-1:静脈栄養法の適応
■静脈栄養法適応の考え方
栄養評価を行って栄養療法が必要と判断した場合,まずは腸管が使用可能かを考えてから栄養療法の方法を考える,という手順となる(第6章-1,p.162参照).したがって,静脈栄養法(parenteral nutrition:PN)を選択するのは,経腸栄養法(enteral nutrition:EN)が実施できない場合,ということになる.しかし,経腸栄養法で十分な栄養投与ができない場合には静脈栄養法を併用する,という考え方もあることは重要であろう.現在,静脈栄養法は感染の危険があるから,バクテリアルトランスロケーションが発生する危険があるから,という理由で経腸栄養法一辺倒になっている傾向がある.もちろん,経腸栄養法を優先的に選択すべきではあるが,静脈栄養法をうまく併用したりすることも,適切な栄養療法を選択する場合には考えておくべきことである.
■静脈栄養法の種類
静脈栄養法には,末梢静脈カテーテルを介して栄養輸液を投与する末梢静脈栄養法(peripheral parenteral nutrition:PPN)と,中心静脈カテーテルを介して投与する中心静脈栄養法(total parenteral nutrition:TPN)がある.一般に,PPNとTPNは,静脈栄養法の実施期間(PPNでは2週間以内,それ以上の期間の場合はTPN)によって選択することになっている.しかし,実際には,投与するエネルギーや輸液組成,末梢静脈の状態なども考慮する必要がある.また,PPNは栄養状態が比較的良好な症例で,非侵襲時あるいは軽度侵襲下における短期間の栄養管理に限るべきであり,栄養状態の改善というよりも,栄養状態の維持という意味合いが強い.栄養状態の改善を目的とする場合や,栄養障害が高度な場合にはTPNが選択されるべきであろう.
■適応の基準
TPNの適応については,日本静脈経腸栄養学会が作成した「静脈経腸栄養ガイドライン第3版」(参考文献9-1-1)を参照していただきたいが,原則的な考え方は表Ⅰに示す,1986年に発表されたASPEN(米国静脈経腸栄養学会)のガイドラインが理解しやすい2).基本は,経口摂取ならびに経管栄養を含む経腸栄養が不可能な場合,あるいはTPNの実施が有利に働く場合がTPNの適応で,短腸症候群,消化管通過障害,腸瘻などは絶対適応である.また,炎症性腸疾患などでは消化管の使用が好ましくない状態としてTPNの適応となり,広範囲熱傷,肝不全,腎不全などの場合にはmetabolic supportとしてTPNが適応となる.一方,消化管に異常がない場合は禁忌と考えるべきであり,消化吸収機能に障害がない場合である脳血管障害後遺症,神経・筋疾患に伴う嚥下障害ではTPNは原則として適応にならない.また,がん末期状態の症例に対するTPNの適応については,議論のあるところである.
(文献9-1-3より引用)