第5章栄養状態の評価
5-4:栄養状態を把握するためのフィジカルアセスメント
■フィジカルアセスメントの概要
A. 臨床栄養におけるフィジカルアセスメント
臨床栄養においては,栄養状態を評価する際に,栄養歴・各種検査値の評価およびフィジカルアセスメントを実施することが望ましい.視診,触診,器具を使用した身長・体重・体温計測,および聴診など多角的に栄養状態を評価する.
B. フィジカルアセスメントの実践
① 外観
ADL(activities of daily living,日常生活活動)や着衣などを観察する.
・ADL:栄養管理を進めていくうえでゴール設定に必要である.自分で料理や買いものが可能か,栄養指導が理解できるか,座位で食事が可能か,などをアセスメントする
・着衣:緩すぎる着衣の場合は急激な体重減少が,きつすぎれば体重増加が疑われる
② 頭部
意識レベル(JCS)や毛髪の状況を観察する.
・意識レベル:栄養管理を実施するうえで意識レベルの評価は重要事項である
・毛髪:脱毛・スキンヘッドであれば化学療法中の可能性が,年齢不相応な白髪があれば悪性貧血が疑われる.クワシオルコルではタンパク質の欠乏によって,脱毛,毛髪の退化・赤色化が起きる
③ 顔面
顔貌から栄養状態を推測する.また,口腔内や眼球・眼瞼も観察する.
・口腔内:口腔内アセスメントを行う
・眼球・眼瞼:落ちくぼんでいれば脱水症や栄養不良が,突出していればバセドウ病が,浮腫があれば体液過剰が,黄染していれば黄疸が疑われる.眼瞼結膜を観察することで貧血の有無が観察可能である
④ 頸部
喉頭の動きおよび外頸静脈を観察する.
・嚥下機能:嚥下の際に,後頭筋が連動して動くか観察する
・外頸静脈:座位で怒張があれば体液過剰,仰臥位で虚脱があれば脱水症を疑う
⑤ 上腕・前腕・手指
筋肉,脂肪,および体液の状態を観察する.
・筋肉・脂肪:上腕周囲長や脂肪厚が計測される
・手指・握力:栄養管理を実施していくうえで,指示動作が入るか否か,握力や筋量がどうか,末梢循環がどうか,の3点を評価する.特に,握力は血清アルブミン値よりもリアルタイムでタンパク合成を評価することが可能とされている
・脱水症:脱水症では,ツルゴール(皮膚緊張)が消失する(図Ⅰ).毛細血管再充満時間(capillary refill time:CRT)が延長する(図Ⅱ).脱水症の重症度判定にフィジカルアセスメントが活用される
図Ⅰ●ツルゴール(皮膚緊張)
通常では皮膚をつまんで離すとしわができ,その後,もとの状態に2秒以内に復する.脱水症では,もとの状態に復するのに3秒以上を要する.
図Ⅱ●毛細血管再充満時間
爪を圧迫し爪床の色が赤色から白色に変わったときに圧迫をやめる.その時点から,正常では2秒以内に赤色に戻る.3秒以上かかれば脱水症,循環不全が疑われる.
呼吸状態,筋肉の状況を観察する.
・呼吸状態:呼吸状態をみるときには,回数・深さ・呼吸様式・リズム・呼吸音などを評価する.食事摂取に関連した気道の異常(アナフィラキシーショック,気道狭窄,誤飲のサイン)の場合もある
・肩部・背部:肩の後ろの筋肉(三角筋)に触って,筋肉量を観察する
・胸部:肋間筋が減少し肋骨が露出していれば栄養不良が疑われる
⑦ 腹部
蠕動を確認し腸管が使用できるか否かの判断材料とする.
・腸管蠕動音:聴診器を使用した腸管蠕動音のアセスメントは実施しておきたい
・腹水・脂肪の評価:肝硬変や低栄養では腹水が,過栄養では腹部の脂肪が増加している
⑧ 下腿
浮腫や末梢循環を観察する.
・筋肉量の評価:大腿四頭筋を触診する
・浮腫の評価:脛骨前面を指で10秒間程度圧迫して離し,その後,数分経っても圧迫痕が消失しなければ浮腫と診断される
・末梢循環:下肢の冷感,爪床が青白く変化,などから末梢循環不全が疑われる
⑨ 体組成
身長,体重などの他,体組成計により筋肉・脂肪・体液量が計測される.
⑩ 尿・便
回数,量,性状(色,臭い),定性試験などが実施される.便の性状はKing’s Stool Chartを使用して1日の便量を点数化する.
⑪ 体温
体温と栄養管理の関係をよく理解する.