第4章栄養と免疫,および生体防御機構
4-1:免疫とは
■概論
免疫とは「自己」と「非自己」を生物学的に識別し,「非自己」からの攻撃を排除して「自己」の生命を維持する生体の働きをいう.体外から皮膚や粘膜を越えて体内に侵入しようとする微生物などの病原体を防御し,さらには侵入しようとする病原体の排除を行っている.また病原体に感染した細胞や腫瘍細胞などの異常細胞を排除する役割も果たしている.一方で,免疫機能が正常に働かない場合,免疫は易感染性,アレルギー,自己免疫疾患,悪性腫瘍など生体にとって不利な反応をきたす.
ヒトをはじめとする高等動物において,免疫機能は免疫細胞(白血球)およびリンパ器官をはじめとするさまざまな器官・組織・細胞によって構成される.免疫細胞は骨髄内の造血幹細胞が分化した,骨髄系前駆細胞とリンパ系前駆細胞に由来する.骨髄系前駆細胞は顆粒球(好中球,好酸球,好塩基球,マスト細胞),単球(マクロファージ,樹状細胞)に分化し,リンパ系前駆細胞はリンパ球(B細胞,T細胞,NK細胞)に分化する.それぞれが末梢血や末梢組織に移行して機能する(図Ⅰ).
図Ⅰ●免疫系の主な細胞
造血幹細胞から分化した骨髄系とリンパ系に由来する.骨髄系は顆粒球と単球に,リンパ系はB 細胞とT 細胞,NK 細胞に分化して免疫の働きを担う.
図Ⅱ●免疫応答の概要
免疫応答は,前感作を必要としない自然免疫と,抗原刺激により後天的に誘導される獲得免疫に大別される.
免疫は,自然免疫(innate immunity)と獲得免疫(acquired immunity)に分類される(図Ⅱ).自然免疫は抗原による前感作を必要とせず,生まれながらに生体に備わっている防御機構である.自然免疫は,病原細菌を貪食する好中球やマクロファージなどの貪食細胞,ウイルス感染細胞を傷害するNK細胞が主体となる.また,自然免疫は幾種類もの微生物抗原などと反応する自然抗体,また自らは抗原特異性をもたないが抗体の働きを補助して生体防御をもたらす補体を総称する.加えて自然免疫は生体を外敵から守る基盤的な防御能であると同時に,獲得免疫機能の活性化にも働く.すなわち,Toll様受容体(Toll-like receptor:TLR)を介して活性化したマクロファージや樹状細胞が抗原提示細胞として主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex:MHC)分子とともにT細胞へ抗原を提示することで選択的に活性化させ,獲得免疫を起動しエフェクター活性を高める.これに対し獲得免疫は,生体が生後抗原と接触することにより後天的に獲得する免疫をいう.獲得免疫はリンパ球と貪食細胞の両方がかかわり,液性免疫と細胞性免疫に二分される.液性免疫は骨髄で分化・成熟したB細胞が分化して形質細胞となった後につくられる抗体(免疫グロブリン)により調節される.細胞性免疫はマクロファージや樹状細胞により活性化されたT細胞のうちCD4+T細胞がヘルパーT細胞(Th細胞)に分化し,CD8+T細胞が細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte:CTL)に分化することにより働く.Th細胞はIFN-γをはじめとしたサイトカインを産生しマクロファージや好中球の機能を活性化する.またCTLはTh1細胞からのIL-2によりCD8+T細胞が活性化されることで増殖する.その結果CTLによって感染細胞や腫瘍細胞の破壊が行われる.