第2章栄養素とその代謝
2-4:β酸化[β-oxidation]
■β酸化[β-oxidation]
β酸化は,脂肪酸の主要な酸化経路(脂肪酸の分解が行われる経路)であり,この経路の酵素はミトコンドリア内のマトリックスに存在する.脂肪酸が体内で利用されるには,アシルCoAシンテターゼによって高エネルギー結合をもつアシルCoAに変換される必要がある.アシルCoAシンテターゼはミトコンドリア外膜や小胞体膜に存在し,反応は細胞質ゾルで行われる.
脂肪酸の酸化は主にミトコンドリア内で行われるが,活性化されたアシルCoAはミトコンドリア内膜を通過することができない.このため,アシルCoAのアシル基をいったんカルニチンへ転移する.ミトコンドリア外膜と内膜には,それぞれカルニチンアシルトランスフェラーゼⅠとⅡ(CPT-Ⅰ,CPT-Ⅱ)が存在し,ミトコンドリア膜間腔でアシルカルニチンがつくられる.アシルカルニチンがミトコンドリア内膜を通過した後,ミトコンドリア内のCPT-Ⅱによってアシルカルニチンのアシル基がCoA-SHに移されて,再びアシルCoAとなる(図6).内膜から遊離したカルニチンはミトコンドリア膜を通って,再利用される.なお,カルニチンは各組織に存在するが,特に筋肉には豊富に存在する.
図6●脂肪酸の活性化とミトコンドリア内への輸送
脂肪酸のβ酸化はミトコンドリアのマトリックスで起こる
(文献2-4-3より引用)
脂肪酸は,ミトコンドリアに取り込まれて主にβ酸化を受けてエネルギーを産生する.これは脂肪酸のβ位の炭素がミトコンドリアのマトリックス上で酸化を受けて,元の脂肪酸から炭素2個が切り出され,アセチルCoA 1分子を生じる反応であり,β位で炭素が切り離されるためβ酸化という.β酸化が1回行われると長鎖の脂肪酸の炭素数が2個減った形のアシルCoAができる.例えば,炭素数16のパルミチン酸の場合は,β酸化を7回くり返してアセチルCoA 8分子を生成することになる(図7).
図7●脂肪酸(パルミチン酸)のβ酸化
炭素数16のパルミチン酸(C16H32O2,分子量256)の場合…
7回β酸化を受け,8個 のアセチルCoAを生じる
1分子パルミチン酸= 8 アセチルCoA+7 NADH+H++7 FADH2
= 8×12 ATP+7×3 ATP+7×2 ATP
= 131 ATP