第2章栄養素とその代謝
2-2:糖質代謝
■糖質の種類と役割
糖質は,果実類,穀物類,乳製品に多く含まれ,人類の主要なエネルギー源である.糖質は植物の光合成によってつくられ,Cn(H2O)mの化学式をもつ化合物であることから,炭水化物と同義語として使われることが多い.
糖質は,その重合度(結合している単糖の数)によって3つに分類される.つまり①単糖類,②少糖類(重合度が2~10程度)および③多糖類(重合度が10を超える炭水化物)である(表Ⅰ).
単糖類とは,グルコース,フルクトース,ガラクトースであり,天然には果実類,野菜類,蜂蜜に少量含まれている.少糖類は,単糖が2分子結合した二糖類が栄養学的に特に重要である.スクロースは,グルコースとフルクトースからなる二糖類で,テンサイやサトウキビから抽出される.ラクトースは,グルコースとガラクトースからなる二糖類で,天然にはミルクと乳製品のみに存在する.マルトースは,グルコース2分子からなる二糖類であり,デンプンの分解物として存在することが多い.トレハロースはきのこや昆虫の組織に多く含まれており,ヒトの小腸にはトレハロースを分解するトレハラーゼが存在する.オリゴ糖とは,3~9個の単糖類が結合したもので,グルコースが3個結合したマルトオリゴ糖などがある.多糖類は,グルコースの重合度が高く,構成する単糖類が十から数千にも及び,グルコースが多数結合した植物の貯蔵多糖であるデンプンと,動物の貯蔵多糖であるグリコーゲンがある.デンプンは穀類に多く含まれ,多く消費されている糖質である.デンプンには直鎖状のアミロースと枝分かれのあるアミロペクチンがある.グリコーゲンは,主に肝臓と筋肉に存在しアミロペクチンと似た枝分かれ構造となっている.
糖質の主な役割は,脳,神経組織,赤血球など,通常はグルコースのみをエネルギー源として利用している組織に,グルコースを供給することである.体内の代謝経路である解糖系や糖新生系が,これらの調節を行っている.
■糖質の消化と吸収
糖質の消化は,口腔内からはじまる.口腔内消化の特徴は咀嚼と嚥下である.口の中でかむことによって食物は粉砕され,α-アミラーゼを含む唾液と混合されることによって,デンプンが初期消化を受ける.口腔内の消化は比較的短く,食塊が食道を通り胃に到達すると,胃酸によってα-アミラーゼの酵素活性が失活する.その後,十二指腸において膵臓から分泌される膵α-アミラーゼにより,マルトトリオース,マルトース,イソマルトースおよび一部はグルコースまで分解される.これら少糖類および二糖類は,小腸粘膜の微絨毛に存在する二糖類水解酵素(マルターゼ,スクラーゼ,ラクターゼ)により単糖に分解され,それと同時に細胞内に吸収される(膜消化).膜消化により生じた単糖は,直ちに小腸粘膜上皮細胞に取り込まれ,門脈を介して肝臓に運ばれる(図Ⅰ).
消化直後の腸管内の遊離糖濃度は高く,小腸粘膜上皮細胞内に受動的に吸収されるが,遊離糖濃度が低下したときには濃度勾配に逆らった能動輸送が必要になる.グルコースとガラクトースはナトリウム/グルコース共輸送体であるSGLT1によって能動的に輸送される.一方,フルクトースの吸収は能動的であり,グルコース輸送体であるGLUTファミリーの一員であるGLUT5によって促進される.単糖類が小腸粘膜上皮細胞に入って基底膜側を通り,血液に入っていく動きは受動輸送で,GLUT2により細胞外に出て門脈に運ばれる(図Ⅰ).
■糖質の代謝
小腸で吸収された単糖類は,非インスリン依存性のGULT2輸送体によって肝臓に取り込まれる.単糖類のうちグルコースは,体内の細胞の多くでエネルギー源として利用される.グルコースの代謝の第一段階は,すべての細胞の細胞質で解糖系とよばれる経路にてATPと炭素数3のピルビン酸2分子を生成する.この後,好気的条件下では,ピルビン酸はミトコンドリア内に輸送され,脱炭酸を受けてアセチルCoAとなり,クエン酸回路に入っていく.この回路でグルコースは完全に異化されて,二酸化炭素と水を生じるとともに,補酵素(NAD+とFAD)を酸化し,これら補酵素が電子伝達系において大量のATPに変換される.
グルコースは,身体にとって主要なエネルギー源であり,組織に絶えずエネルギーを供給するため,血糖値を一定のレベル(70~100 mg/dL)に保っておくことが重要である.グルコースは,ピルビン酸,乳酸,グリセロールおよび多数のアミノ酸から合成が可能である.グルコースの生成は,基本的には解糖系の逆反応であり,これを糖新生系という.なお,糖新生は肝臓と腎臓に特異的な反応であり,これらで合成されたグルコースは血中へと放出され,すべての組織で利用される.
図Ⅰ●糖質の消化・吸収の流れ
(文献2-2-1より引用)