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キーワードでわかる臨床栄養

第10章各疾患の栄養管理

10-13:炎症性腸疾患とビタミン,ミネラル[vitamin, mineral]

■炎症性腸疾患とビタミン,ミネラル[vitamin, mineral]
 食事摂取量の低下や吸収障害があるとビタミン・ミネラルが欠乏する.十二指腸や小腸に病変がない潰瘍性大腸炎では,欠乏はまれである.しかし,5-ASA製剤との相互作用で吸収が低下することがある.とくに葉酸欠乏が起こりうる.ステロイド投与時には,カルシウムの尿中排泄が促進され,骨粗鬆症のリスクが増大する.炎症性腸疾患の活動度が高いと脂溶性ビタミンであるビタミンAビタミンEが低下する.

① ビタミンB1
 ビタミンB1は糖質が燃焼するときに必須のビタミンである.欠乏すると脚気,Wernicke脳症,乳酸アシドーシスなどの重篤な欠乏症状が出現する.とくに,輸液管理中の場合には,点滴内に十分なビタミンB1を補充しなければならない.

葉酸
 核酸,プリン,ミジンの合成に関与する補酵素であり,欠乏すると巨赤芽球性貧血,白血球数減少がみられる.血清や赤血球の葉酸が正常であっても,ビタミンB12が欠乏していると葉酸の利用が障害されるので骨髄像に巨赤芽球が出現する.コメには葉酸が含まれているので日本食を摂取している限りにおいては欠乏症は起こりにくいとされている.食習慣の欧米化によるコメ離れが葉酸欠乏のリスクを高めている.葉酸は緑黄色野菜や肝臓に多く含まれている.
葉酸拮抗薬(メトトレキサート,ペンタミジン,ピリメタミン,トリアムテレン,トリメトプリム),5-ASA製剤,催眠・抗痙攣薬(カルバマゼピン,フェノバルビタール,フェニトイン,プリミドン,バルプロ酸),コルヒチン,サイクロセリン,イソニアジド,メフェナム酸,メトホルミン,フラジオマイシン,ニトロフラン誘導体,フェナセチン,炭酸水素ナトリウム,コレスチラミン,エストロゲン,経口避妊薬およびアルコール摂取により血清葉酸値は低下する.葉酸欠乏では胎児に神経管閉鎖不全による奇形(無脳症,脳瘤,二分脊椎など)がおこるとされている.

③ ビタミンB12
 血清ビタミンB12値が260 pg/mL未満の場合はビタミンB12投与を考慮する.菜食主義者では卵や乳製品の摂取が禁止されているので欠乏症が起こる.経口摂取されたビタミンB12の吸収過程は複雑であり,胃全摘術後,抗壁細胞抗体,抗内因子抗体が存在する場合,酸分泌抑制薬の長期投与などでビタミンB12の吸収は低下する.アミノグリコシド系抗菌薬,5-ASA製剤,フラジオマイシン,抗痙攣薬(フェニトイン,フェノバルビタール,プリミドン),コレスチラミン,シメチジン,コルヒチン,メトホルミン,ペンタミジン,ラニチジン,トリアムテレン,経口避妊薬服用でビタミンB12は低下する.
 クローン病では,ビタミンB12が吸収される回腸末端部に病変が多発するので,しばしばビタミンB12欠乏症がみられる.

ビタミンD
 内因性ビタミンDの活性代謝産物である1,25-(OH)2-D3が小腸からのカルシウム吸収を促進する.
 炎症性腸疾患では脂質の摂取が制限されるため,ビタミンDの不足が起こりやすい.血清カルシウム値が6.5 mg/dL以下では,ビタミンD投与やカルシウム製剤投与が必要である.低アルブミン血症ではイオン化カルシウムが正常でも血清カルシウム値はみかけ上,低値になる.臨床的にはPayneの式,
補正Ca濃度(mg/dL)=Ca実測値(mg/dL)+〔4-血清アルブミン濃度(g/dL)〕
で補正する.
表1
⑤ 亜鉛
 亜鉛の60~70%はアルブミンに結合し,残りのほとんどはペプチドやアミノ酸と結合している.1日に必要な摂取量は10~15 mgである.炎症性腸疾患では活動期が長く続くと亜鉛欠乏症が起こる.持続する下痢や腸管に瘻孔がみられると血清亜鉛値は低下する.
亜鉛欠乏では,顔面・会陰部の皮疹,口内炎,舌炎,脱毛,爪変化,腹部症状(下痢や腹痛,嘔吐)や発熱などがみられる.亜鉛欠乏で創傷治癒の遅延や成長障害,免疫力低下,精神症状(うつ状態)がみられることもある.また,味覚低下(味覚障害)もしばしば出現する.
サイアザイド系利尿薬,ループ利尿薬,ジスルフィラムなどの薬剤投与時には高値となり,ステロイド(グルココルチコイド),クロフィブラート,経口避妊薬服用時にも低下する.クローン病では持続する頻回の下痢症状がみられるので,潰瘍性大腸炎と比べて亜鉛欠乏の頻度が高い.
硫酸亜鉛を経口投与することがあるが,一般には処方できないのでプロマック®を用いることがある.亜鉛補給を目的としてブイ・アクセルというサプリメントを投与することがある(表1).

⑥ セレン
 完全静脈栄養を実施している場合にはセレン欠乏が起こりうる.セレンはグルタチオンペルオキシダーゼの構成成分であり,抗酸化作用で組織細胞の酸化を防ぎ,ユビキノンの合成を通じて生体酸化を調節している.通常の食事摂取で欠乏症はみられないが,中心静脈栄養の長期化によりセレンが欠乏すると,下肢の筋肉痛,心筋症,爪床部白色変化,AST・ALT・CPKの上昇が起こる.

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