第1章栄養障害と栄養療法
1-2:リフィーディング症候群[refeeding syndrome]
■リフィーディング症候群[refeeding syndrome]
高度栄養不良の患者を救急搬送などで初診で受け入れた際に,つい高エネルギー投与をしてしまうと,意識障害や心不全を引き起こすリスクがある.食糧事情がよく福祉制度の充実した現代の日本では摂食障害(神経性食欲不振症)などの精神疾患患者に多い.
豊臣秀吉が兵糧攻めの後に投降してきた敵に粥をふるまった際に,次々と死亡したのが毒を盛ったと誤解されたようであるが,じつはリフィーディング症候群であったと考えられている.
長期の飢餓状態にあると,細胞内も糖質不足の飢餓状態になり,生命活動に必須のエネルギー媒介物質であるATP(アデノシン三リン酸)の産生も低下している.同時に慢性的に電解質も不足状態にあり,細胞内に多い電解質のカリウム(K),マグネシウム(Mg),リン(P)も低下している.この状況下に急に糖が投与されると,糖を細胞内にとり込んでATPの産生に使おうとする.ATP産生にはPが必要なのでPが不足する.急に多くの糖が投与されると,インスリン分泌が亢進するので細胞外から細胞内へのK,Mg,Pの移動を加速させる(参考文献1-2-2).
Pは組織への酸素の供給にかかわる2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG)の構成成分であり,Pが不足すると2,3-DPGが不足して,赤血球のヘモグロビンから酸素を遊離しにくくなる,すなわち酸素解離曲線が左方移動して組織への酸素供給が低下する.
このように,飢餓状態への高エネルギー投与がもたらすP欠乏症は,脳,心臓,肝臓などの重要臓器へのエネルギー・酸素供給に障害を発生させて,心不全,不整脈,意識障害,肝機能異常などを招く.この病態をリフィーディング症候群という.(表1)
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