- 床ずれの基礎知識
- 床ずれの治療
- 床ずれの食事療法に病者用食品
床ずれ(褥瘡)になったら
どうすればいい?
床ずれが発生してしまった際の治療方法には、
局所治療、体圧分散、スキンケア、栄養管理があります。これまで局所治療・体圧分散が重要視されていましたが、最近ではきれいに早く治すために、適切なスキンケアと栄養管理が注目されるようになっています。
床ずれ(褥瘡)の治療
床ずれが発生した部分に集中的に行う治療を「局所治療」といいます。炎症が見られる場合は、炎症を鎮静化させ、保護し、湿潤環境を整えます。床ずれの深さや状態に応じて、次のような治療を進めていきます。
1塗り薬やドレッシング材を使用する
軟膏など塗り薬を塗布し、さらに傷口が乾燥しないよう湿潤環境を整える「ドレッシング材」で保護します。
2手術
①の方法では治癒が望めない深い床ずれには、外科的治療として手術を行います。
3物理療法
痛みを緩和し、傷口の治癒促進、筋・靭帯などの組織の弾性促進を目的に、床ずれが発生した部位に物理的な刺激を与える「物理療法」が行なわれます。その手段は温熱・寒冷・電気刺激・超音波療法などさまざまあり、感染をおさえ、死んでしまった細胞の除去、傷口を小さくするといった効果が得られるといわれています。
ベッドなどの寝具から身体の表面に加わる圧力のことを「体圧」といい、この体圧が身体の一部に加わり続けると、床ずれ発生の大きな要因になります。適切なポジショニング、定期的な体位変換、体圧分散寝具の活用により、局所に集中している体圧を分散させることで、圧迫時間を短くできます。
1適切なポジショニング
寝たきりの方が安全で、疲れや痛みがない楽な体位でいられるよう、クッションなどを利用し、ポジショニングを整えます。
2定期的な体位変換
身体の一部に長時間圧力が加わらないよう、2時間を目安に体位変換を行います。
3体圧分散寝具の利⽤
「体圧分散寝具」とは、身体の形に合うように沈み込むマットレスのことです。体とマットレスの接触面積を広くすることで、体圧を分散できます。エア(空気)、ウレタン、ウォータータイプなどさまざまな素材があり、状態に合わせて選択されます。
ケア
床ずれの発生部位を洗浄・保湿するなどして、傷口の潤いを保持し、外部刺激から身体を守るバリア機能の低下を防ぎます。スキンケアにより、皮膚を健康な状態に保つことができます。
1傷や傷まわりの洗浄
床ずれの発生した傷口は、皮膚表面の汗や皮脂に加え、浸出液や細菌、排泄物などで汚れています。この状態では傷がうまく治らないため洗浄し、汚れをとることが重要です。傷口の洗浄には、基本的に生理食塩水か水道水を使用します。
傷まわりの洗浄は、皮膚の状態を確認し、皮膚が脆弱な状態であれば、刺激が少ない弱酸性洗浄剤、皮膚が乾燥している状態であれば、皮膚保護成分配合の洗浄剤などが選ばれます。
2過度な湿潤と乾燥の予防
皮膚表面が湿った状態が続くと、バリア機能が低下し、床ずれになりやすくなります。おむつを使用している場合は適切なタイミングで交換し、尿取りパッドなども上手に活用しましょう。
また、皮膚の乾燥状態(ドライスキン)もまたバリア機能を低下させます。高齢者の皮膚は乾燥傾向にあるので、おむつの交換時や入浴後などのタイミングで低刺激の保湿クリームを塗り乾燥を防ぎましょう。
局所治療、体圧分散、スキンケアを試みても治療効果を十分に得られない、というケースがあります。その背景には「低栄養状態」が大きく関係していることが明らかになっています。床ずれの治癒過程で必要な栄養素は何か。どのように栄養素が働くのか。どれくらいの量の栄養素が必要なのか。併せて確認してみましょう。
1床ずれ治癒に必要な栄養素
床ずれ(傷)の回復に関わる3つの栄養素
皮膚や血管が傷つき、それに体が反応して傷を治す働きが活発になります。
新しい血管がつくられ酸素や栄養を運びます。同時に皮膚の成分を作りだす細胞の働きが活発になり、傷をふさぐ材料が生み出されます。
傷口がどんどん埋められ、より丈夫な皮膚を作っていきます。
コラーゲン
ペプチド
①皮膚の成分を作り出す細胞を刺激し、健康な皮膚を作る。
②直接皮膚の材料になる
床ずれのある方は
健康時の1.5倍
のたんぱく質が必要!
亜 鉛
皮膚の材料(たんぱく質など)を作り出す時に必要となる。
床ずれのある方は
健康時の2.5倍
の亜鉛が必要!
ビタミンC
皮膚の材料(コラーゲンなど)を作り出す時に大量に必要となる。(不足すると治るのに時間がかかる)
床ずれのある方は
健康時の6倍
のビタミンCが必要!
参考:2) 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」75歳以上(女性)の推定平均必要量、厚生省老人保健福祉局老人保健課「褥瘡の予防・治療ガイドライン」
注目の栄養素 コラーゲンペプチドとは?
皮膚の主な材料となる「たんぱく質」の30%を占めるコラーゲンを分解し、水に溶けやすくした状態のものが「コラーゲンペプチド」です。コラーゲンペプチドを摂取すると、「①直接皮膚の材料になるもの」と「②皮膚の成分を作り出す細胞を刺激するもの」があり、特に②の働きが注目されています。1日5~10gを補給するのが理想的です。
コラーゲンペプチドの体内での働き
床ずれの治癒と栄養について動画で詳しく⾒る
2治療に必要な栄養素の量
床ずれを治療する場合、身体が必要とする栄養素の要求量が増えるといわれています。たんぱく質、エネルギーが十分にとれていない患者(PEM患者)には、疾患を考慮した上で、高エネルギー・高たんぱく質のサプリメントによる補給が推奨されています。またビタミン類や亜鉛などのミネラル類も、治癒過程で多量に必要となる栄養素です。普段の食事だけでは摂りきれない…そんな時は、医療機関などで利用されている栄養補助食品を活用してみましょう。
(例)身長150㎝、体重40㎏、80歳女性の
必要栄養量をみてみましょう。
1.エネルギー必要量の比較(1日当たり)
エネルギー1,560kcalは...
*1:基礎エネルギー消費量(BEE)をHarris-Benedictの式を⽤いて、活動係数1.1(寝たきり)で算出
*2:参考:日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)」
*3:ご飯1杯150gで計算
2.たんぱく質必要量の比較(1日当たり)
たんぱく質60gは...
*1 参考:厚⽣労働省「⽇本⼈の⾷事摂取基準(2020年版)75歳以上(女性)の推定平均必要量
*2 参考:NPUAP/EPUAPガイドライン
3.ビタミン・ミネラル必要量の比較(1日当たり)
鉄 (mg) |
亜鉛 (mg) |
ビタミンA (μgRAE) |
ビタミンC (mg) |
|
---|---|---|---|---|
健康な時 最低限必要な量*1 |
5.0 | 6 | 450 | 80 |
床ずれのある時 治すために必要な量*2 |
15 | 15 | 600 | 150〜500 |
*1 参考:厚⽣労働省「⽇本⼈の⾷事摂取基準(2020年版)75歳以上(女性)の推定平均必要量
*2 参考:厚⽣省⽼⼈保健福祉局⽼⼈保健課「褥瘡の予防・治療ガイドライン」
食事だけでは摂りきれない…そんな時には「栄養補助食品」
⾷事だけでこれらの栄養素を賄うのが難しい場合は、⼿軽に各種栄養素を バランスよく摂れる、栄養補助⾷品も活⽤しましょう!
床ずれになったら、どう大変?
いったん床ずれになると、ご本人だけでなく介護者にもさまざまな負担がかかります。介護量の増加は生活を圧迫してしまい、精神的なストレスにもつながります。さらに治療代や入院費用など、経済的負担も背負うことになってしまいます。
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本人の
負担- 継続する痛み
- 傷口から菌が繁殖すると感染症のリスクも
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介護者の
負担- 薬の塗布
- ドレッシング材の交換
- 傷口の洗浄
- 体位変換(本人が痛がるのでより大変…)
- 栄養補給(増大した栄養必要量への対応)
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経済的
負担- 薬やドレッシング材など、治療用品代
- 重篤な場合は入院費用
適切なケアで予防に努めましょう
このページで紹介した体圧分散やスキンケア、栄養管理などの治療法の一部は予防にも共通するポイントです。寝たきりの方や栄養状態が良くない方など、床ずれのサインに思い当たることがある方は、できることから予防法を取り入れてみてください。
予防法
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体圧分散
- マットレス活用
- 2時間おきの
体位変換
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スキンケア
- マメなおむつ交換
- 保湿
-
栄養管理
- 食事の見直し
- 栄養補助食品