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キーワードでわかる臨床栄養

第2章栄養素とその代謝

2-4:脂質代謝

■脂質とは

 脂質は重要なエネルギー補給源および貯蔵体として,1 g当たり9 kcalで,糖質やタンパク質(ともに,1 g当たり4 kcal)に比べてエネルギー密度が高い.さらに脂質は,必須脂肪酸の供給源,脂溶性ビタミンの補給源,細胞膜の構成成分,生理活性物質としてなど,多様な栄養生理機能をもっている.

表Ⅰ

 脂質とは,ベンゼン,エーテル,クロロホルムなどの有機溶媒には可溶であるが,水には不溶または難溶性を示す物質の総称である.これは脂質が極性をもたない長い鎖状あるいは環状の炭水化物によって構成されているためにみられる性質で,極性分子の溶媒である水とはなじみにくく,疎水性を示す.脂質を化学構造から大別すると,単純脂質(simple lipid),複合脂質(complex lipid),および 誘導脂質(derived lipid)に分類できる(表Ⅰ).これら脂質の基本的な構成要素は,脂肪酸である.

■脂質の消化と吸収

 食事中の脂肪酸は,主にトリグリセリド(トリアシルグリセロール)の形で存在する.食事中のトリグリセリドは,十二指腸において胆汁の胆汁酸塩とエマルジョンを形成した後,
膵液から分泌される膵液リパーゼにより,脂肪酸とグリセロール(主にモノアシルグリセロールやグリセロール)に分解される.これらはミセルとなって,小腸粘膜細胞から吸収される(図Ⅰ).脂肪酸のうち,短鎖脂肪酸,中鎖脂肪酸は小腸の毛細血管から吸収され門脈経由で肝臓に輸送される.一方,長鎖脂肪酸とモノアシルグリセロールは,再びトリグリセリドを形成しリポタンパクであるカイロミクロンに取り込まれる.カイロミクロンは,小腸のリンパ管に取り込まれ,胸管を経て全身の大循環に合流し最終的には肝臓に到達する.

図Ⅰ

図Ⅰ●トリグリセリドの消化と吸収
(文献2-4-1より引用)

■トリグリセリドおよび脂肪酸の代謝

 エネルギーの貯蔵,供給に関する脂質の代謝は,炭素数2の化合物であるアセチルCoAが重要な中間代謝産物で,これから脂肪酸ケトン体コレステロールが合成される(図Ⅱ).生体内の代謝として,食後やエネルギー余剰の際,脂質はアセチルCoAから脂肪酸に変換され,さらにトリグリセリドが合成されて貯蓄される.脂肪酸の合成経路は,肝臓,腎臓,脂肪組織,脳などの組織に存在し,合成に必要な一連の酵素は,細胞質ゾル(cytosol)にある.まず脂肪酸(パルミチン酸)の合成が行われる.肝臓をはじめさまざまな組織で,脂肪酸およびグリセロール 3-リン酸を材料としてトリグリセリドが合成される.なお,グリセロール 3-リン酸の供給源は,解糖系で生じたジヒドロキシアセトンリン酸および遊離のグリセロールである.トリグリセリドは余剰のエネルギー源であり,その貯蔵量は体タンパク質と同程度の体重の約20%程度であり,優に1カ月分を超えるエネルギーの備蓄となっている.
 トリグリセリドは,ヒトの脂肪組織に貯蔵され,細胞内で必要に応じて分解されて脂肪酸とグリセロールになる.グリセロールは解糖系に入って代謝されてATPを産生するほか,糖新生によってグルコースに変換される.一方脂肪酸は,ミトコンドリアでβ酸化を受けてアセチルCoAに転換された後,クエン酸回路に入ってATPを効率的に産生する.

図Ⅱ

図Ⅱ●アセチルCoAを中心とした脂質代謝の概要

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