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キーワードでわかる臨床栄養

第11章高齢者の栄養管理

11-3:認知症

■認知症の食の課題

A. 認知症の原因疾患
 認知症および認知症様症状をきたす疾患や病態には多くの疾患が含まれる(参考文献11-3-1).変性性認知症は脳の進行性変性による認知症で,Alzheimer病(AD)による認知症が60%程度といわれ,次いでLewy小体病(DLB)や前頭側頭変性症(FTLD)などが代表的である.脳血管障害に起因する認知症は血管性認知症(VaD)とよばれる.
 変性性認知症では,神経細胞の脱落,神経原線維変化,神経伝達物質の異常,大脳皮質の萎縮が徐々に全体に広がり,脳の機能障害を起こしていくことで,日常生活上の不具合が生じていく.臨床症状は経時的に変化していき,その様子は認知症高齢者一人ひとりで千差万別である.現時点では原因疾患そのものは治癒が困難であることから,認知症自体を治療(キュア)することより,表出される臨床症状への支援(ケア)が生活を支える主体となる.

B. 認知症の症状
 日常生活の不具合の原因は認知機能障害である.精神疾患の診断基準であるDSM-4では“中核症状”とよばれた症状は,改訂版のDSM-5では認知機能障害として①全般性注意障害,②遂行機能障害,③記憶障害,④失語,⑤視空間認知障害,⑥失行,⑦社会的認知の障害,とされた(参考文献11-3-2).これらは,脳機能の障害の結果,直接表れる症状であり,認知症であれば病態による差はあっても必ず認められる症状である.これらの機能低下と廃用,加齢変化により身体機能低下が進行していく.
 認知機能障害によって,周囲の状況を把握できなくなり混乱した結果生じる症状は,認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)とよばれ,日常生活上の不具合を指す.認知症の80%前後がBPSDを合併するといわれ,行動変化として不穏,焦燥性興奮,脱抑制,攻撃性,収集癖など,また心理症状としては不安,うつ症状,幻覚,妄想があげられる.食事の場面であれば,異食,手掴み食べ,過食,盗食などがそれにあたる.

C. BPSD(チャレンジング行動)による食の課題
 BPSDは,近年海外では「チャレンジング行動」とよばれる(参考文献11-3-3).すなわち,認知機能低下による状況の認識のゆがみにより生じた本人にとって辛いことに対して,本人なりに対処しようと試みた結果の行動ととらえる.身体疾患や環境因子などのさまざまな影響を受けるため,きっかけになる出来事や状況を丁寧に振り返り,捉え方を転換して支援することで軽減の可能性がある.認知症の人の口腔衛生や食事に関する行動変化に対しては,食事や環境など何らかの情報に混乱した結果生じてしまったBPSDに起因する症状と,認知症の進行そのものによる身体機能低下に起因した症状を区別するように観察アセスメントすることが,支援の要点になる.認知症の人の世界を想像し,混乱させないような誘導を行う.

D. 薬剤の影響
 認知症高齢者は複数の疾患をもち投薬数が多い傾向があり,BPSDに対しても,精神科薬剤が追加されるケースは少なくない.薬剤が口腔に及ぼす影響は,口渇,嚥下困難,味覚異常,流涎などの薬剤性パーキンソニズムなどが知られ,場合により変更・中止を検討する必要がある(参考文献11-3-4).また進行過程で周辺症状の出現状況の変化や身体状況・体格の変化(体重減少など),他の内服薬の中断・追加などの変化により,急に精神科薬剤の副作用が出現する.特に複数の処方科や主治医の変更,また家庭内で処方薬の適正使用が障害(飲み忘れや過量服薬など)されると,多剤併用による副作用の重複の問題は複雑化する.

E. 認知症と栄養学的因子
 高齢期の低栄養リスクは認知機能低下したものに生じやすく,特に買い物における困難,調理における困難,食欲低下などが要因となる.これまでの知見からは,炭水化物中心の食事よりも多様な食品類(日本人においては大豆,野菜,魚,海藻類,乳製品など)を摂取している人の方が,認知症発症リスクが低いと報告されている.欧米人においては地中海食が有名であるが,いずれにしてもこれは糖尿病をはじめとする基礎疾患との関連を理解しておく必要がある.認知症とビタミンやミネラルについていくつかの報告がなされていること,また咀嚼機能が維持されている人の方が多様な食品を摂取することが可能なため,ビタミン・ミネラル・タンパク質など栄養素の充足がなされることを踏まえ,バランスのとれた栄養摂取への支援が必要である.

■認知症の食事支援の方針

 高齢者が認知症と診断されて機能障害が生じてからも住み慣れた地域で暮らし続けるためには,医療モデルではなく生活モデルにシフトチェンジする必要がある.認知症の人はリラックスしていて慣れた環境であれば残存機能を最大限発揮することが可能であるが,逆に慣れていない不安になるような環境下ではBPSDが出現し残存機能を発揮することが困難になる.したがって,認知症患者本人にとってわかりやすい,慣れていて落ち着ける環境を提供することが介入の成功要因である.環境を適切に整えることで,複雑な日常生活の情報処理が困難であっても,習慣性動作である食事の行動は保存されやすい.

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