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キーワードでわかる臨床栄養

第10章各疾患の栄養管理

10-8:脂質異常症

■脂質異常症とは

 脂質異常症とは,血液中に含まれる総コレステロール,トリグリセリドなどの血清脂質が基準値を超えて高い状態,もしくはHDLコレステロールなどの血清脂質が基準値よりも低い状態である.脂質異常症は動脈硬化性疾患の危険因子であることから,その治療は狭心症,心筋梗塞,脳梗塞,脳血栓,末梢動脈疾患などの発症,進展予防のために重要である.
 日本動脈硬化学会のガイドライン(参考文献10-8-1)では,冠動脈疾患発症予防の観点から脂質異常症の診断基準値が次のように設定されている.空腹時採血にて,LDLコレステロールが140 mg/dL以上のとき高LDLコレステロール血症,120~139 mg/dLのとき境界型高LDLコレステロール血症,またHDLコレステロールが40 mg/dL未満のとき低HDLコレステロール血症,そしてトリグリセリドが150 mg/dL以上のとき高トリグリセリド血症と診断される.
 同ガイドラインでは,冠動脈疾患予防からみた管理目標設定のためのフローチャートが示されている.このフローチャートに沿っていくと,糖尿病,慢性腎臓病,非心原性脳梗塞,末梢動脈疾患の主要危険因子がある場合,もしくは追加リスクが重複するに伴ってリスク区分が上がり,リスクに応じて脂質管理目標値が厳しくなる.さらに二次予防ではより厳しい管理目標設定となり,目標値をめざして積極的な治療が行われることとなる.

■脂質異常症とリポタンパク代謝

 疎水性の脂質は,血漿中では親水性のタンパク質にとり囲まれて存在しており,このような脂質とタンパク質の結合体をリポタンパクという.中央部分には主にトリグリセリドやコレステロールエステル,その周囲にリン脂質,表層部分にはアポタンパクが存在する.アポタンパクは脂質と結合し,トリグリセリドやコレステロールの転送を助ける.また,リポタンパクと細胞膜の受容体との結合に関与し,リポタンパクリパーゼ(LPL)などリポタンパクの代謝にかかわる酵素の活性を調節する.
 リポタンパクには,いろいろな大きさ,重さのものがあり,比重の違いにより大きく4つに分類されている.以下,比重の軽いものから順に示す.

① カイロミクロン
 カイロミクロンの90~95%がトリグリセリドで構成されており,主に食事性のトリグリセリドを輸送する.小腸にて吸収された食事由来の脂質は,小腸粘膜上皮細胞にてカイロミクロンに再合成され,リンパ管を経由して血中に入る.

図Ⅰ

図Ⅰ● リポタンパク代謝
(文献10-8-2をもとに作成)

② 超低密度リポタンパク(very low density lipoprotein:VLDL)
 VLDLの50~65%がトリグリセリドで構成されており,主に糖や脂肪酸から肝臓などで合成された内因性のトリグリセリドを筋肉や脂肪などに輸送する.

③ 低密度リポタンパク(low density lipoprotein:LDL)
 VLDLからトリグリセリドが減少してできる.コレステロールを末梢組織に伝播する.

④ 高密度リポタンパク(high density lipoprotein:HDL)
 肝臓や小腸粘膜上皮細胞でつくられる.末梢組織の余ったコレステロールを引き抜き,肝臓に逆転送する.
 リポタンパクは図Ⅰのように代謝される.脂質異常症は,遺伝的素因,運動不足,内臓脂肪型肥満などを原因として,リポタンパクの代謝障害により発症する.

■栄養管理

 脂質異常症の治療では,食事療法,運動療法,禁煙など生活習慣の改善とともに薬物療法が考慮される.しかし,すべての脂質異常症患者にとって基本となる治療は生活習慣の改善であり,生活習慣が血清脂質値に大きく関与する.特に食事療法では,エネルギー摂取量の管理による肥満の改善(参考文献10-8-3)や,摂取する脂質の量や質の是正により,脂質代謝の改善に寄与できる.具体的な食事の調整方法は,日本動脈硬化学会の脂質異常症診療ガイド(参考文献10-8-4)にまとめられており参考にする.実際には,それぞれの患者の病態や食習慣,食嗜好などによって対応が必要だが,基本の食事療法は以下のとおりである.

① 総エネルギー摂取量を適正化し,体重を管理する.
総エネルギー摂取量の目標は,標準体重と日常生活活動量から以下の式で算出した量を目安に,現状を踏まえて決定する.
総エネルギー摂取量(kcal/日)= 標準体重×身体活動
標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
身体活動量(kcal/kg):軽い労作25~30,普通の労作30~35,重い労作35~

② 栄養素配分のバランスを考慮する.
エネルギー比率は,脂質は20~25%,炭水化物は50~60%とする.

③ 脂質の質を考慮する.
飽和脂肪酸はエネルギー比率で4.5 %以上7 %未満とし,バター,チーズといった乳製品,肉の脂身,皮など飽和脂肪酸を多く含む食品は摂りすぎないようにする.また,魚油などからn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を増やす.工業由来のトランス脂肪酸を含むマーガリン,ファットスプレッド,ショートニングやこれらを使用した菓子類の摂取は控える.

④ 食物繊維はできるだけ多く摂る.

⑤ 大豆・大豆製品,野菜,糖質含有量の少ない果物を十分に摂る.

⑥ 食塩の摂取は6 g/日未満にする.

⑦ アルコールを控える(1日25 g以下に抑える).

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